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「私の目がキラキラしたことがあった?」
優しげな声でそう問い掛けて、エリカは残念そうに、そして心のどこかで仕方ないと言って諦めたかの様に、力なく微笑んだ。
千鶴は自分がエリカのことを本当はあまり知らないのだと思う。
偶に、そう思う。
「でも楽しそうなのは、走ることが楽しいからだけではないのよね?」
何事もなかったみたいにエリカは口角を上げ、澄んだ黒い瞳に千鶴を映す。
千鶴は戸惑う。
エリカはズバッと大切なところに触れる時、人の目を見て微笑むのだ。
一度絡んでしまうと逃げられない視線。
千鶴も逃げられず、うっ、と後退りする。
「真琴さん、格好良いものね」
「う、うん、真琴先輩カッコイイよ」
「千鶴、どうするの?」
何時もと同じ声で言われると現実味が強過ぎて目眩さえ起こしそう。
度が強すぎる眼鏡でも掛けてしまったみたい。
いっそのこと、からかう様に笑いながら言ってくれれば、千鶴も軽く返せるのに。
どうすれば良いのか、寧ろ、どうしたいのかが解らないから困っているのだ。
「どうしよう……」
と、千鶴の口から自然に声が出ていた。
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