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一. 文章中の空欄に適切な語句を入れよ(但し一単語とは限らない)。
(1) It is ( ) he came to here.
……。困りましたな。解答できなくて万事がお休み中です。
嘘だけど。実際に窮した訳ではない。
教科書で一語一句違わない問題を見たと記憶している。確か、範囲の四ページ目くらいだ。なので「あー、これゼミで遣った問題だー」と予備校の売り上げを助長するCMは心の中で上映することに留めた。そもそもゼミになんて通ってないし、テスト中であることを考慮に入れれば宣えるはずがないのである。
しかしどうにも、この一文を見た覚えはあるのに……適切な語句が思い出せない。「なんだっけこの味、食べたことはあるんだけど」と唸るおっさんに等しき状態とは。嘆かわしいけど小生前を胸を張って歩きます。
まあ、気に病む必要も無いから。そう考えて、目を擦った。百四秒間、その辺のおっさんと差別化を謀れることに優越を……今更覚えない。
そして『視』た。
他の生徒が直線上に被らないように最大限の注意を払い、適当な人物の鞄を引き剥がす。鞄の内包物に英語の教科書を見つけ、表紙からページを裂き続け、目当ての一文を探す。
発見。
どうやら「time」らしい、と解答の違法入手。一応小声で呟いて、僕の周囲一マス以内の学友に正答サンプルを無料配布しておいた。どうぞご自由にお持ち帰り下さい。社会のために活かすべきなのだ、素晴らしきかな社会貢献。そんな僕の心中を知ってか知らずか、周囲は僕の気配りなど必要なくどんどん解き進めて
いる。けしからん。
さて、戯言に現を抜かしている時間も無いので、三行目から先に目を通す。
次の問題は視る必要無し。自力で解けそうなので、記憶の教科書を捲るだけで十分だ。
解けない問題は、解答を頂戴することにしているけど。
* * *
春期課題考査は十一時五十分ちょうどに全課程を修了させた。さすが試験だけあり、時間にルーズな校風は見事出張を果たしていた。普段はバリバリの会社勤めを見せているせいで、五十分授業とは名ばかりの時間外延長もほぼ常である。
これではどうやって授業の鬱憤を休憩できようか、という訳で当然僕は授業が終わって無かろうと五十分経ったら勝手に一礼して一人教室を出歩き屋上へ、行くほど反抗期していないので現状に甘んじております。無念なり。
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