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筆箱と解き終えた試験の問題用紙を鞄に詰め直し、教室を出ようとして「お待ち下さい」変な声と手に捕まり歩行出来なくされた。オルフェウスではなく変態もとい変帯の学友である。
「お待ち頂けません」悪しからずよろしく。
「まあそう仰らずに」
「残念ですが。それでは」って、手を離せよ変態め。
「落ち着けってばぁ」
「早く帰ってウチの金魚に餌をやらないといけませんの」飼ってないけど。
「じゃあその後でいいからさ、カラオケ行こうべ」
「一人で行ってこいよ」僕にはすることも無ければ金も無いのだ。
「平日料金じゃん。考査の日の午後はチャンスって教科書にも書いてあるでしょ
ーが」
「どこの国の方言で書かれた教科書をお使いになってるのやら」そーですね。……あ、いけね、科白と内心が逆になってる。わざとじゃないと言えば嘘になるけど。
「ねー行きましょー、先輩☆ ……一時に駅前噴水のとこでどうかな」
「出来ればお会いしたくないです、先輩。二十才ほど年齢差があれば話さなくて済むのにと思うと非常に残念です」タメな癖に。
「それは残念でした。っていうか実際どうなの? 真剣に無理系か」
「分かった分かった。一時ね。ちょっと寄り道していくから遅れるかも」
「よろしい」そういって手を離し、あろうことか僕よりも先に教室を出て下校する変帯。
まともに会話したらこっちが疲れるほど、今日の彼の声は彼女だった。……むむ、意味分からん表現だ。
要するに、自分の声を自由に変化させられる不気味な幼馴染みなんです、彼。
* * *
蜜月のような悪夢の始まりは、僕の十四度目の生誕祭が、小規模に行われている時だった。
一見すると呪いの儀式のように、明かりを落とした部屋では、ホールケーキの上で十四本の蝋燭の焔が揺らめいていた。
連綿と受け継がれる風習に則り、僕は原初の灯りを吐息で吹き飛ばした。対象の分からない拍手が沸き起こる。火なら誰でも消せるのに、と毎度のことながら思う。
そして母親の手で、部屋に人工の光が復活した。人類の発明である。
急な光は眩しく、反射的に目を閉じ、手で庇った。
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