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そうだ、
僕は無事なのか?
咄嗟に、視界からタイムアウトしていた自由な両腕を目の前に掲げる。
嗚呼、僕は無事だ―――そう思った瞬間、僕の両手が赤を伴って溶け出した。
嘘、だろ?
視界が暗転した。
* * *
真っ暗だ。世界が全て溶けてしまったのだろうか。付随して先の光景が蘇り、吐き気が襲う。
けどすぐに、黒い世界の理由が分かった。
瞼を閉じているだけだ。
肩を揺すられた。声が聞こえた。
声が聞こえた。渡辺さんとドロドロしていたはずの父親の声だ。
目を開くと、白い天井と白い壁と白いシーツと白いベッドが見えた。なんだ、白って。さっきの黒い世界へのアンチテーゼ気取りか。
ぐるりと辺りを見回して、父親もドロドロしてないし母親もオブジェってないことに安堵する。
―――――そりゃ、真実な訳ないよな。
「大丈夫? 気分は悪くない? あなた急に倒れて……」と、母親から心配そうな声が上がる。
「適度には」と返す。残像で少し気分が優れないだけで、身体的にどうという訳ではない。両腕もちゃんとついている。
「とりあえず、顔を洗ってきなさい。酷い顔だ」と父親が、言葉に若干の心配を溶かし込み勧めてくる。
素直に頷き、とりあえず目を擦り、ぼやけた視界を安定させようとした。
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