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―――また、病室で同じ事が起こった。同じ風景。同じ色。同じ吐き気。同じ行程で人が壊れ出す。
世界が嫌になった。
叫んだ。倒れた。
* * *
「とさ」と、一度だけ変帯に語ったことがある。
「斯くして得たのが透視……いや、剥視能力なのだー。わはははー」
「グロいな、それ。っていうか俺の親父巻き込まれたのかよ」おいおい、と突っ込みをいれてきた。お察しの通り、彼は渡辺家の一人息子だ。…もちろん嘘である。最近キレのいい冗談を良く言うようになった。まったく誰に似たんだか。
父さん同士がドロドロの関係だよね俺ら、などという軽口はフルーツオレで飲み込んだ。
「すみませんね躾がなってない僕で」
「俺を殺すとは良い度胸だな。がははは」渡辺さんの声真似っぽいことをしてきた。辞めて欲しい。申し訳ないという感情が微塵ぐらいは起こってしまうじゃないか。冗談はさておき。
「……まぁ、病院での二度目の時はホントに精神的に限界だったね」嘘ではない。
「その時はどうしたの」ちょっと真剣な表情になる偽渡辺さん。
「僕は急に『やめてくれ』って叫んだらしいよ、聞いた話によるとね。僕は何を言ったか実は覚えてないんだけど。まあでも、何か言って、それで元に戻ったのは覚えてる」
意思があれば壊れる現象は止まると理解したのもその時だ。
「やめてくれー」
「声真似をやめてくれ渡辺氏」あとそんな間延びした口調で言える精神状態じゃなかった自信があるね。
「でもさ、不謹慎だけど……便利なんじゃない?」てめっ今なんて小声で呟きやがったこのやろう。羨ましくないけど、だと?
…まあ(幻聴です)とでもして納得しておかないと話が続かない。
「まあね。例えば」と右目に軽く触れる。
「お前の今日の弁当、おかずにエビフライが三尾だ。当たってたら一尾寄越せ」
「フェアじゃないな」まったくだ。
三年間、色々分析してきた。……トラウマを増やさない為に。
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