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「まあ、そんなこともあるよ」目敏いおばちゃんにフォローされた。僕ってば可哀想な少年である。残念無念。
まぁ、別に外れたことは悔しくないのですが。
可哀想じゃない少年にもなれる演技力もといインチキ能力は備わっているつもりだ。
掛けていない眼鏡を直すように、人差し指で目元を押さえる。
スクラッチカードの置き場はさっき確認した。店員さんはある程度なら希望に応じて枚数を調整して取ってくれることも確定事項だ。
さて、狙うは三等、一万円。林檎のマークが縦並び、かな。
という訳で上から片っ端に、コインも使わず銀の覆いを削ろうと、あれ、おばちゃんの机に貼ってある年末ジャンボの当選番号表、二重になってる、なんて無意識に剥がされたことで発覚したけど、至極どうでもいいので本題を始めた。ガリガリガリガリ。無音ですがね。
一枚目を剥がし、外れであることを確認する。一枚目のシートごと破棄。二枚目、破棄。三枚目四枚目五枚目と削り進めていく。ゴミが散らばりだしたが現実ではないので気にしない。六枚目七枚目八枚目九枚目……おや?
あるところはあるもので、九枚目は桜の縦並びだった。一等の十万円である。
「……………………」
欲の皮が突っ張りかけた。しかし悲しいかな、この規模の宝くじ売り場では一万円までしか換金出来ない。集合時間まで間もないので、泣く泣く諦めだ。
続行し十枚目十一枚目十二枚目十三枚目十四枚目、十五枚目に差し掛かった所で目的は半分達成された。おや かみきれ の ようすが……?
そこで僕は悩める少年の皮を被り、「おばちゃん、もう一回だけ!」と銀貨二枚でおかわりを要求した。「えっと、上から十五枚目!」
「はいどーぞ」と笑顔でおばちゃんは紙切れを吐き出した。決してリアルに以下略。
「ありがとう」と言いながら既に削り始める、そのがめつさ演出も忘れない。
果たして、林檎のマークが縦並びだった。まあ、分かってはいたけど。
「あんたそれ、当たりじゃない?」売り場の目の前で削ったのでおばちゃんも気がついた。
「あっ、これ、当たってるよね?」敢えて疑問形を選択したけどこの選択当たってるかな。
「おめでとう! 一万円、ラッキーだね」飽くまで店員、愛想良く他人の当たりを喜び、今度は対価無しで紙切れを吐き出した。
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