ONE:唐突な隣人

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ドアを開ける。そこに立っていたのは、俺の淡い期待に意外にもきちんと応えてくれる人だった。こういった期待は裏切られるのが定石のようなものだから、この展開には少し驚いた。 「今晩から隣の101号室でお世話になります、清川咲良です」 そう言って彼女は丁寧に頭を下げ、律儀に菓子折りを差し出した。 「あ、ありがとう。野元健児です。これからよろしく」 古風な挨拶の仕方に戸惑いながらも、自己紹介を済ませる。そして、ここで俺は、初めて彼女の姿をゆっくり見ることができた。 まず、背が低い。男の中で言えば俺も背が低いのだが、彼女はその比じゃない。身長から見れば中学生、下手したら小学生並だ。 髪はそれほど長くはなく、肩に少しかかる程度。色は黒の中に少し茶が混ざっているような感じ。 顔はキレイに整っていて、外国人とのハーフなのか、鼻が少し高く、瞳の色が緑がかっている。どこかのファッション誌の読者モデルだと言われたら信じてしまいそうだ。 それでいて、これらの長所を全て打ち消そうとするかのごとく無表情。これだけ美人なんだから、もう少し表情豊かにすればそれなりに良い人生が送れそうなものだが。
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