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「もう部屋に入ってるはずだから、後で挨拶に行きな。口数は多くないけど、面白い子だよ」
「どうせ向こうから来るでしょ。わかったよ、ありがとう」
笑顔で話す高田さんの声を話半分に聞き流し、簡単に礼を言って俺はその場を離れることにした。
家に帰った俺は、テレビのお笑い番組を見ながら、ぼんやりと隣の家の人のことを考えていた。高田さんの家から帰ってざっと30分経ったが、その人はまだ挨拶に来ていない。トラックがついさっきアパートから去っていったから、荷物の積み込みは終わっている。今は簡単に荷物を片付けて、引越蕎麦でも食べているかもしれない。
テレビでは、最近引っ張りだこの人気コンビが出てきて、お決まりのギャグをする。スタジオはドッと笑いが起きたが、俺は笑わなかった。別にこの芸人が嫌いなわけじゃない。むしろ好みの芸人だ。それでも俺が笑わなかったのは、やっぱり新しい人が気になるからだった。
城島にでも聞いてみようと思って、俺は電話を取り出し番号を押す。しばらく待っていると城島が出た。ちなみに、城島は今のご時世には珍しく携帯電話を持っていない。そのため家の電話からだ。
「もしもし。城島です」
「ああ、庸平? 野元だけど」
「野元先輩? どうしました、何か用ですか?」
「別に大した用事じゃないけどな。お前って、今日引っ越してきたヤツのこと何か知らないか?」
城島は、あ~、と納得したような反応をしてから言葉を続けた。
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