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Yちゃんは物心がつく前に母親を病気で亡くしていた。
はじめからいなかったのだから仕方ないと思っていたそうだが、それでも遠足や運動会のお弁当の時間など、母親が連想されるような場面になると少し寂しかったし、一度でいいから会ってみたかったと思ったこともあったそうだ。
そんなYちゃんが小学六年生の時、授業参観でのこと。
教室の後ろには級友達の父兄が並ぶ。
もちろんYちゃんの父親は仕事で、その場にはいなかった。
こういう時がYちゃんを少しだけ寂しくさせる時間だった。
それでも仕方ないと机に向かっていたが、授業が中盤に差し掛かった頃、教室に暖かい空気が漂ってきた。
不思議に思って辺りを見回すが、違和感を感じているのはどうやら自分だけのようだ。
後ろを振り返ってみたが、父兄も整然と並んで立っている。
気のせいかと思い正面を向くと、黒板脇の教室の入口の前に女性が一人立っていた。
"あれは誰?何で教室の前に立ってるの?"
不思議に思って見つめていると、その女性もYちゃんを見つめている。
周りを見ても誰も女性の方を見てはいない。
女性はYちゃんを見つめて優しく微笑んだ。
その瞬間、Yちゃんは思い出した。
"お母さんだ!"
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