79 神様がくれた一日

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教室の前方に立っていたのはまぎれもない、写真で見ていた母親の姿だった。 放心状態のYちゃんを母親はずっと見つめ続けている。 その眼差しのなんたる優しいことか。 Yちゃんの瞳からは自然と涙がこぼれ落ちて止めることができなかった。 Yちゃんの涙に気付いた級友達が周りを取り囲む。 突然の事態に教室が騒然とする中、Yちゃんが気丈に振る舞いやがて教室中が落ち着きを取り戻した頃にはもう母親の姿はなかった。 「もう少しだけ涙を我慢してたら、もう少しだけお母さんの顔を見ていられたのにね」 その日、帰宅した父親にその話をすると 「母さん、美人だったろ?俺も会いたかったな」 と、笑顔で答えた。 父親がこの話を信じたかはわからないが、Yちゃんにはビールを飲む父親の顔がいつもよりも楽しそうに見えたという。
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