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…――フェルゼン王国。
城が、炎上していた。
王紋の刻まれた旗に火が移ると、布に染み渡るインクのような速さでそれを灰へと変えていく。
肺を焼くような灼熱。
むせ返るほどに黒煙の立ち込める城内からは、絶えず銃声と叫び声が響いていた。
深紅のカーペットを更に色濃く染めるのは、あちこちで倒れる兵士から流れるどす黒い血。
まさに地獄絵図ともいえる光景が広がっている。
しかしそこは数刻前まで、いつもと何ら変わらぬ平穏な場所だったのだ――…
「王女殿下ッ!ここはもう落ちます!どうかお逃げ下さい!」
火の手がすぐそこまで迫る部屋。
そこへ倒れ込むように入った壮年の男は、中にいる人物を見るなり切羽詰まった様子で叫んだ。
「逃げる事などできない!何の為の"力"だッ!!」
勇ましく返すのはドレスを纏った姫――ではなく、軽装鎧を纏った若い女だった。
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