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「嗚呼シャルロッテ様、お労しや……」
大聖堂の席ではハンカチを持って啜り泣く老婆がいたが、嬉し泣きではない様子だ。
「シッ!奴らの耳に入れば我がフェルゼンの民は皆殺しですぞ」
その隣では緊張からか、冷や汗を流した初老の大臣が小声で咎める。
「…――それでは誓いのキスを」
やがて神父の言葉に2人は向かい合い、マティアスはシャルロッテの頭上から被さるベールに手をかける。
鋭い切れ長の目に癖のない長めの髪。
間違いなく美形に属する端正な顔をした男だった。
だがアメジストを連想させる紫の瞳は冷淡そのものであり、これから伴侶になるであろう相手を見据えるものとは到底思えない。
一方、上げられたベールから露になるシャルロッテの表情もまた冷たく、マティアスをきつく睨み上げるのだった。
ベールから手が離れる瞬間、シャルロッテの耳元でマティアスは静かに囁く。
「俺の勝ちだ」
すると、シャルロッテの漆黒の瞳には燃え上がるような何かが燈される。
そして唇が重なる寸前――
白い手袋をはめたそこにはなんと、まばゆい光と共に1つの剣が現れたのだった。
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