始点

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「はいはい、寝言言ってないでさっさとご飯食べちゃいなさいよ」  一真が考え事している間に裕菜は朝食の準備を済ましたらしい。 「懐かしいな。過去6回寝込んだ事を思い出す」  一真が裕菜の手料理を食べるのは初めてではない。両親の離婚で父親に引き取られて父親が再婚するまでたまに作ってもらっていた。 「いつまでも昔の事を。今はいくらなんでもそんな事はしないわよ」 「じゃあ、いただきます」  一真はためらう事なく食べはじめる。元々、食中り起こしたのは最初の頃だけだ。最終的には一真が美味しいと思えるだけの腕はもっていた。 「うん、うまい。昔より腕をあげたな」 「当たり前よ。何年経ったと思ってるの。料理くらい腕は上げるわよ」 「5年、いや6年か。確かにだいぶ時がたったな」 「まぁ、あんたはあんまり成長してないわよね。特にガキ臭いところが」 (まぁ、だから気楽にはなせるんだけど) 「少しテレビでもつけるか」  一真がリモコンを握る。 「へぇ、あんたがゲーム以外でテレビつけるなんて意外。ビルに飛行機が突っ込んだ事件も知らなかった癖に」  一昔あった世界の大事件。一真は知り合いから聞くまで知らなかった。 「あったな。そんなこと」  懐かしみながら一真はチャンネルをまわす。 「昨夜東京の渋谷区にあるデパートが崩壊した事件で、目撃者によれば高校生らしい若者が素手で壊したなどの証言があいついであり、警察では捜査が難航しています。続いて昨日の昼、埼玉県の春日部市でスタンガンを隠しもっていた少年ですが。凶器のスタンガンが見付からず本日誤認として釈放されました。また、昨日4件の連続放火事件ですが。未だに犯人は見付かっておらずに、放火方法もみつかっておりません。また、各地で細かい事件の中に通常では考えられないような事件が多発しております。原因不明ですが皆さん十分に注意してください」  流れてるニュースが二人の間の空気を凍てつかせる。 「通常では考えられない事件?」  裕菜は昨夜の事が頭によぎる。 「ねぇ、昨日私が酔った後。何か不思議な事がなかった?」  裕菜は声を震えさせて聞く。 (テレビなんてつけるんじゃなかった)  一真は心の中で舌うちした。今朝の様子から忘れてるか。夢と勘違いした事は容易に想像していた。だから、少しの間だけでも忘れさせておきたかった。 「あったよ。火をだす人間がいた」  一真は正直に答えた。近いうちにばれる事はわかっていたのだ。
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