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理由はわからないが、話から狙いは一真だということだけはわかった。ならば、一真と離れれば裕菜の身は安全な可能性は高い。一真は打たれ強いが。喧嘩は強くない。1対1ですら負ける事がある。炎を出す奴ならなおさらだ。銃を持ってる奴より危険だ。ならば、逃げるしかない。例え僅かな可能性でも。賭けるしかない。
「キヒャヒャャ。逃げきれる?逃げきれる訳ないじゃん。キヒャ。キヒャヒャャ」
男の手から炎が吹き荒れる。
(きた)
一真は男の手の動きに注目した。所詮は手から真っ直ぐに出るもの。そして、拳銃とは違いぎりぎり目視できる速度だ。
(このぐらい距離あれば)
男の手から一真に向かって真っ直ぐに炎が伸びる。一真は飛び退いて避けようとするが。炎が一真避けると同時にまるで蛇のように一真を追い掛ける。
「ぎゃぁぁぁぁ」
一真の悲鳴がせまい路地に響き渡る。いくら、打たれ強かろうが。足を燃やされて耐えられるわけない。
一真は痛みと衣服に燃え移った炎を消すためにころげまわった。「はぁ、はぁ、はぁ」
一真はようやくの事で炎を消す。鼻につく焼けた異臭。足なんて痛み以外の感覚が無い。空気がふれているだけで泣き叫びそうな痛みを感じる。
「痛い?痛い?キヒャ。逃げるなんて選択をするからだ」
立てない一真の背中を男が容赦なくふみつける。
「さぁ、起きるんだ。それとも、そのままはいつくばりながら死ぬかい」
一真はこれまでのろくでもない人生の走馬灯が流れた。
(走馬灯が流れたか。これは死ぬな)
死にたい訳ではなかったが。出来る事はもうない。あっさり死を受け止められた。
「あぁ、もういいや。つまんねぇ。死ね」
男が炎で一真を焼き殺そうとしたその時、男の後頭部にゴミ箱が直撃した。
「一真を離せ」
裕菜が今度は近くにあったゴミ箱をもう一つ投げた。
「いいねぇ」
炎がそのゴミ箱を一瞬にして灰にする。
「いいねぇ。君は心得てるよ。恋人を守ろうとするその心。なら、恋人の為に命投げ出してみるかい」
男は掌を裕菜に向けた。
「やめろ」
一真は無事な上半身を動かして足にしがみつく。
「あぁ、ようやくその気になった?キヒャ。キヒャヒャャヒャヒャヒャヒャ。ヒャヒャヒャ。でも、残念。全然足りない」
男の手から炎が出る。一真にはその光景がまるでスローモーションの様に見えた。
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