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声を荒げた女性の白い右手から『何か』が青年へ、思いっ切り投げつけられた。
大気を切り裂きながら直線的に高速移動をする『何か』に気付いた青年は、疑問符を頭に浮かべながら振り向き、
「げぶっ!?!」
飛来した鉄(くろがね)の調理器具━━━━フライパン━━━━は、青年の顔全体を覆い被さるかの如く、ものの見事に青年の顔面にミシリと直撃。
否、めり込んだ。
土がこすれあう、派手な音を鳴らし、砂煙を巻き上げながら、青年は後頭部から地面に大の字で倒れこむ。
「は…………はにゃが……」
ピューピューと小気味のいい音を立てながら、真っ赤な液体が青年の鼻から飛び出し、行く行く通行人の視線を集める。
「ハァ、ハァ…………。やぁっと見つけたわよ…………」
青年が徐に瞳を開くと、そこには腰まで伸ばした黒髪が特徴的な女性が、腕を組みながら仁王立ちをしていた。
長身である青年よりも、やや小柄なその女性は、細い眉毛をピクピク動かして、冷ややかな視線を青年に向け続けている。
やがて、青年は自分に攻撃を加えた人物を目で捉え、座り込んだままいきり立った。
「なななななな…………なにすんじゃコンニャロー!」
青年が怒るのも無理はない。
事情も判らず。そして何の前ぶりも無く、いきなりフライパンを投擲されたのだから。
「それはこっちのセリフよ!」
「へい?」
だがしかし、怒られる理由は青年にあった。
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