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「それで?も・ち・ろ・ん、お金は払ってくれるわよね?」
すらっとした右手でフライパンを上空に持ち上げ、凄みを利かせながら詰問をする女性に対して、
「い、イヤだなぁ。も…………勿論ですよ。あはははははは…………はは」
青年はその事について首肯する他無かった。
「わかればいいわ。なるべく速くしてね、お店開けちゃってるから」
「へーい……っと」
また例によって例のごとく、青年はいつものようにコートの裾を揺らし、中からお金を取り出そうとする。
が、しかし。出てくるのは小さな紙屑やら何かの滓やらばかりである。
「…………」
「あ……あっれ~?おかしいなぁ~」
青年は冷や汗が止まらなかった。
そしてこの状態は皆さんにも少なからず有るはず。なので、胃に穴があく程、無言の圧力をかけられ続ける青年の事を、どうか理解していただきたい。
(………………マジすか?え?嘘でしょ?)
一番の被害者は彼なのだ。
最早女性が凶器(狂気を孕んだ調理器具)を振りかざすのに、一刻の猶予も無いと察した青年は、自身の腕がもぎ取られんばかりに、猛烈に上半身を動かし始めた。
「出ろぉぉぉぉお!頼むから何かでてきてくれぇぇぇ!」
道のド真ん中で叫び声を上げながら、激しく体を上下左右に揺らす姿は、奇妙奇天烈を体現したものであった。
奇妙を通り越し、一種の恐怖すら覚えるほどだ。
その結果。
━━━━━カララン。
出た。
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