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乾いた金属音の正体は、青年が水筒代わりに常に携帯している、そこら中に凹みがあるヤカン(蓋無し)が。
それが一つ。裾から転げ落ち、両者の間に割ってはいるように現れたのだ。
「…………」
「…………」
虚しく、風が吹く。
中身がないため、カラコロカラコロと、ヤカンはまるでおもりを入れた人形のように、不規則に動いていた。
(よし)
それを見た青年は、とある決心をした。あわよくば、許してもらえるかもしれないと、淡い期待を抱きながら。
「あのぉ…………」
「何よ?」
鋭い眼光を向けられる中、恐る恐る、青年はゴマをするように両手を合わせ、一つの提案をする。
「ツケといてくれますか?」
青年の答えを聞き、ニコッと微笑む女性。ほんの少しの時間、青年は成功を確信した。しかし、次の瞬間。女性は般若のような形相に切り替わる。
「いいわけ…………………………無いだろうがぁぁぁ!!!」
『殺戮調理器具(フライパン)の底が自身の顔を捉えている』。青年がそれに気付いた時には、時すでに遅し。
「ですよねぶるぁぁぁ!!」
青年の悲鳴が、快晴の空に響き渡った。
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