青息吐息?

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「レンです。『レン・シングウジ』」  青年━━━━レンは気後れせず、至ってハキハキと自分の名前を述べる。  赤ん坊を彷彿させる、人懐っこい笑顔を浮かべながら、レンは内心焦りに焦っていた。 (えーっと。なんでこーなっちゃったんだったっけ?俺、ヤバいよ…………兎にも角にも、ヤバいよね?)  そんなレンは今、冷や汗まみれである。 「レンだっけ?アンタ何歳?」 「二十八歳です!世界中を旅して回ってます!!」  これ以上機嫌を損ねてはならないと、ぶかぶかのコートごと右手を挙手しながら、即座に返事をするレンであったが…………。  必ずしも、結果がよい方向に傾くとは限らない。 「いい年した男が何?住所不定無職ゥ?『魔導開化』以前の不安定な環境なら、旅人ってのも納得できるけど、この御時世で?」 「う゛っ!」  下手に動いたばかりに、レンは痛いところをつかれ、カウンターヒットを喰らってしまう。  しかし、女性が言っていることは尤(もっと)もなことである為に、レンは正にぐうの音も出ない。  『魔導』。  それは今から丁度十八年前に、とある学者によって提唱された。  体内に存在する『魔力』を媒体とし、様々な超常現象を引き起こす。  この事を『魔導』と呼ぶ。  個人差があるとはいえ、『魔導』は誰にでも使え、非常に汎用性が高いという部分があり、急速に世界中へ『魔導』は広まっていった。  『魔導』が広まった事により、それまで一部の限られた人にしかできなかった定住が可能になり、生活水準が全体的にかつ格段に上昇し、安定した生活を送れるようになったわけである。  そしてこの飛躍的な進歩の事を、『魔導開化』と呼ぶ。  そのため、レンは反論一つできないのであったのだ。 「挙げ句の果てに食い逃げェ?ふ~ん。いい御身分ね~。なんてったって世界中でタダメシにありつけるんだから。私もなろうかしらね?」 「ゴフッ!」  自分の存在を否定するような皮肉を言われ、何かを吐くレン。  ……勝敗は決したのだ。
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