順風満帆?

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 草むらのどこかからか、虫たちが小さく、鳴き声を囁く。空の中に映えて、赤く照り輝く雲。ゆったりと靡く風と、徐々に沈んでいく太陽は、夜が近づくことを知らせていた。  動物たちが暮らす草原地帯の近くに流れる、やや幅が大きい川が、楽園に水を与えている。  そんな物静かな夕暮れの中を、一隻の木で組みたてられた小舟が波紋を作っていた。  小舟の上には、二つの人影。 「~♪~♪…………おっ!?」  手入れをしていないのが見て取れる、逆立ち燃え盛るような焔(ほむら)色をした髪の男が、暢気に鼻歌を歌いながら、膝の上に足を立て、船底に背をつけてふんぞり返っている。 「…………旦那ぁ。チョイと静かにしてくれませんかね?」  舟と同じく、木製のオールを握りながら、網笠を被った中年男性が、赤い髪の青年へ、ため息混じりに注意を促した。  それに対して青年は、 「なんでだよ~つれないな~」  唇を尖らせながら、子供のように抗議を始め、勢い良く背中を起こした。  古ぼけた黒い革製のコートを着込んだ青年は、すっぽりと両手を裾の中に隠し、余った服の部分をブラブラ揺らしながら恨めしそうに呟いた。  整った顔立ちに、おっとりした柔和な笑顔は、青年の性格を如実に表している。  つまりそれは、『世の中』を知らないと思わせてしまうのだ。  そんな彼のこれからを案じ、網笠の男性は釘を刺した。 「ここいらは治安が悪い。…………気ぃつけないとおっ死(ち)んじまいますよ」
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