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レンが料理店の女性と邂逅を果たし、『守護』の所に連行されそうになってから、約十二時間後。
既に太陽はその力強い姿を消して、綺麗な円を描く月に、光を与える存在となっている。
月明かりもまた、美しく地上の人々を、明るく照らし続けた。
殆どの人々が寝床につき、夢の中で時を過ごしているであろう。この日は比較的に涼しく、優しいそよ風が時折流れていた。
そんな夜の中。
街の人々が知らぬところで、事件は起きていた。
そこは辺り一面、見渡す限りの草原(くさはら)で構築されていた。岩も木も無く、ただ踝(くるぶし)程の長さの緑が、延々と続く土地。
現在レンが滞在している街よりも、少しばかり離れた郊外にある、自警団の駐屯地。
蒼色に統一された防具を身に纏った守護達が、様々な武器を携え、腰まで伸ばした白髪の青年を囲んでいた。
その数、およそ三百。
つまりその屯所に居た全員が、寄ってたかって一人の青年を仕留めようとしているのである。
なぜ、このように大人数が一カ所に固まっていたのか。
その理由は至って簡単なものであり、この街に対しての反乱軍の活動が、最近活発になってきたからである。
そんな守護達は今、固唾を飲み込みながら、青年の次の行動を恐れ、警戒し続けていた。
「これだけの人数だ!貴様に勝ち目は無い!大人しく…………降伏しろ!!」
白髪の青年を取り巻いていた内の一人が、震える声を抑えながら、半ばやけになりながら大声を上げる。
「……………………」
漆黒のコートに身を包み、左頬に大きくえぐられたような傷跡を持つ、『腕』を完全に隠している青年は、眉一つ動かさず、凍り付いた視線を下へ。
自身が生み出した三つの死体へと向けていた。それぞれが原形をとどめておらず、真っ二つになっていたり、螺旋状にねじ曲がっていたりと、特殊な力が加えられたのは、誰の目から見ても明らかであった。
生物を肉片へと変えた、その根本たる青年の血塗られた拳は、未だにコートの中へと潜み続けている。
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