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駐屯地を任されている初老で顎髭を蓄えた、体格のいい男性の隊長が、声を荒げながら降伏を真正面の青年に求める。
脂汗が全身を蝕んでいるのをハッキリと理解した上で、隊長は譲歩をしつつ、尚も青年に呼びかけた。
「今ならばまだ!命だけは助けてやれる余地がある…………だが!!これ以上何かをするならば、容赦は━━━━━━」
「驕るな」
青年の底冷えするような一言で、ざわついていた場は一瞬で静まり返った。
「何か、勘違いをしているみたいだからな。敢えて言っておいてやる。上なのは『俺』だ」
圧倒的なまでの存在感。禍禍しく濁る双眸。
青年を象(かたど)っている全てのものが、威圧感を放つ。
「━━━━━━━━━━構え」
話し合いは無用と判断した隊長は、先手を打たねばならないと本能的に察知し、指令を下す。
『後手に回るならば先はない』と。
長(おさ)からの命令を受け、一斉に、ある者は弓を構え、またある者は体内の『魔力』を収束させるために詠唱を開始する。
仲間が目の前で惨殺されたのに対し、怒りを燃やす者も、少なくはなかった。
「抵抗、か。まぁいい、どのみち…………俺は貴様たちを許すつもりは毛頭無い。一人残らず、な」
白髪の悪鬼はそう短く事を告げると、見えぬ右腕を、自らの左頬へと流れるように動かす。
「拘束機関…………解除」
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