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「…………紛争は十八年前に、もう終わったんじゃなかったのかい?」
船頭の話を聞いていた青年は、ニコニコしている表情を一瞬で切り替え、鋭い眼光を向けた。
かつて栄華を誇っていた、人口数万人の街『シャングリラ』。青年がこれから向かう地で起こった争いの事を、船頭の男は複雑な思いで振り返る。
(この男…………)
商売柄。長年様々な人を運び続けた男性であったが、かつてこれまで哀しみを背負った瞳に出会ったことはなかった。
ただの平和ボケではないということを察しながら、船頭は何事もなかったかのように話を続ける。
「へぇ~詳しいね、旦那。そうだよその通り、一度は完全に収まったさ。だけども最近になってまた始まったんだよ。おかげでめっきり人足が減っちまった。こちとら商売あがったりさ」
苦笑いをする船頭が再び青年の顔を視る頃には、あの哀愁感漂う瞳は完全に消え去り、代わりに穢れを知らない、赤子のような笑みを浮かべた乗客がぽつんといるだけだった。
「……早く、終わるといいね」
その言葉を聞き、船頭は先程の自分が視たのは勘違いだと自分に言い聞かせる。
矢張り、目の前にいるのは世界を知らぬ者だと。
「旦那。口で言うのは簡単ですけどねぇ…………世の中そうそう、うまくはいかない。人は、憎しみの楔を断ち切れない。争いは何時になっても終わりませんよ」
それに対し青年は、
「あ~やっぱり?むつかしいよねぇ…………」
ばつが悪そうに、服の中へと隠れた左手で、頭を掻きながら笑っていた。
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