意気阻喪?

8/23
前へ
/76ページ
次へ
━━━━━━━━━━━━━━━  数時間後。 「では、御注文は以上でよろしいですか?」  漆黒のコートに身を包み、その長すぎる袖に腕を丸ごと隠し、遠方からでも判るような真紅の髪を持つ男。  レン・シングウジは、柔らかな微笑みを作りながら、紙に黒のペンで、客が告げたメニューを書き写していた。  因みに、「見栄えが悪いから」というユリの意見で、レンは黒コートの上から、薄い桃色のエプロンが掛けられている。 「ユリさ~ん!魚定食一つ追加で御願いします~」  なかなか様になっているレンであった。  レンは想像以上に『止まり木』が繁盛しているのに、内心驚いていた。まだ開店して間もないが、席は既に満席状態で、今にも行列ができそうだった。  レンが考え事をしていると、 「ちょっと、そこの給仕さん?」  つい先程料理の注文をし、紫色の洋服を着た、肩につくほどの艶やかな黒髪を持つ、小皺がやや目立つ初老の女性が彼を手招きしていた。 「どうかしましたか?」 「お仕事の最中に悪いんだけど…………ちょっとユリちゃん呼んでもらえないかしら?」  その口振りからして、ユリの知り合い。もしくは『止まり木』の常連客であろうとレンは予想し、 「少々お待ちを~」  小走りで熱気が漂う厨房まで駆けていった。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加