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数時間後。
「では、御注文は以上でよろしいですか?」
漆黒のコートに身を包み、その長すぎる袖に腕を丸ごと隠し、遠方からでも判るような真紅の髪を持つ男。
レン・シングウジは、柔らかな微笑みを作りながら、紙に黒のペンで、客が告げたメニューを書き写していた。
因みに、「見栄えが悪いから」というユリの意見で、レンは黒コートの上から、薄い桃色のエプロンが掛けられている。
「ユリさ~ん!魚定食一つ追加で御願いします~」
なかなか様になっているレンであった。
レンは想像以上に『止まり木』が繁盛しているのに、内心驚いていた。まだ開店して間もないが、席は既に満席状態で、今にも行列ができそうだった。
レンが考え事をしていると、
「ちょっと、そこの給仕さん?」
つい先程料理の注文をし、紫色の洋服を着た、肩につくほどの艶やかな黒髪を持つ、小皺がやや目立つ初老の女性が彼を手招きしていた。
「どうかしましたか?」
「お仕事の最中に悪いんだけど…………ちょっとユリちゃん呼んでもらえないかしら?」
その口振りからして、ユリの知り合い。もしくは『止まり木』の常連客であろうとレンは予想し、
「少々お待ちを~」
小走りで熱気が漂う厨房まで駆けていった。
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