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「ユリさ~ん!」
レンが声をかけた先には、頭に可愛らしく三角巾を付け、自慢の黒い長髪が料理入らないようにして、中華鍋をふるっている女性━━━━ユリ・シノミヤ━━━━がいた。
「もう何よ!?コッチは見ての通り忙しいんだから、遊んでる暇なんてないんだからね」
「いやぁ、それなんですがね、お客さんの一人がユリさん呼んでるんですよ。…………ホラ、あの人」
周りからは見えぬ人差し指で、レンは先の女性を指差した。
「誰よもう…………ってサキおばさん?」
「知り合いスか?」
「うん。………………お父さんの、お姉さん」
父。
そうユリが口にすると、彼女の茶色い瞳は悲しみに彩られた。
それを見逃さなかったレンは、ユリにもしやと思い、尋ねる。
「ユリさん、その、あの……」
「父は私が十歳の時に死んだ」
まごつくレンに嫌気がさし、これ以上言及されるのを避けようと、ユリは感情を押さえ込んで、自分に言い聞かせるように短く告げた。
「じゃ、私はちょっと外すからその間、料理を見ていて頂戴」
それだけ言って、厨房から逃げ出すように、ユリはサキの元へと走り寄っていく。
ユリが去った後。
「………………ごめん」
消え入りそうな声で、レンは一人。罪を感じて謝罪の言葉を述べた。
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