60人が本棚に入れています
本棚に追加
━━━━━━━━━━━━━━━
「ユリちゃん?元気でやってるのかい?」
「もちろん!毎日元気過ぎて困っちゃうくらいだから♪心配しないで」
それが空元気だと気付かない程、サキ・シノミヤは鈍い女性ではない。
「辛い時は辛い。たまには吐き出さないと、やっていけないでしょう?」
そう言って、サキはユリの顔をじっと見つめる。そよ風に揺れ動く、腰まで届くような黒髪に、サキは戦争で苦しんだかつての自分の姿を重ねた。
毎日を怯えて暮らしてきた一昔とは違い、今は安全な生活が守られている。しかしながら、争いが生んだ疵痕はあまりにも大きく、あまりにも深い。
健気に頑張っているユリの身を案じ、サキはいたずらっぽく、話題を明るく変えた。
「そういえば…………お店に新しい人が居たねぇ。いい男じゃない?ユリちゃんも隅に置けないねぇ」
「いえ、あの、その、そんなんじゃないですよ!?」
二十八歳と少しばかり遅くはあるが、ユリも年頃の生娘である。突然話が切り替わり、そういった方向に傾いてしまえば、動揺してしまうというもの。
最初のコメントを投稿しよう!