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「後継ぎも問題ないかね?」
サキに茶化されて、ユリは頬を紅潮させた。
そのような事を言われてしまったため、不意にユリの脳裏で一瞬、レンと結ばれて幸せに暮らす自分の姿が映った。
(悪くは、ないかも)
確かにレンは整った顔立ちをして、人懐っこく放っておけない点がある。興味がないと言えば、それは嘘になる。
だが、
「これならケンの奴も心配しないで眠れるかね」
サキのこの一声で、ユリは現実に引き戻される。
「うん…………そうだね」
明らかに声のトーンが落ちたユリを見て、サキは「しまった」と思うと同時に、改めてユリの心にぽっかりと開いた穴の暗さを知った。
十八年前の紛争で、惜しくも命を落としたユリの父親━━━━ケンジ・シノミヤ━━━━を話題に出したのはマズかったとサキが痛感した時には既に遅い。
今にも泣き出してしまいそうなユリの顔に、無理もないとサキは頭を抱えた。
唐突に、しかもユリの目前で、ケンジは胸を貫かれて絶命したのだ。
何とかしてこの空気を変えようと、辺りを見渡したサキであったが、その目に映ったのは、このタイミングでは最悪というべきものであった。
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