意気阻喪?

11/23
前へ
/76ページ
次へ
「後継ぎも問題ないかね?」  サキに茶化されて、ユリは頬を紅潮させた。  そのような事を言われてしまったため、不意にユリの脳裏で一瞬、レンと結ばれて幸せに暮らす自分の姿が映った。 (悪くは、ないかも)  確かにレンは整った顔立ちをして、人懐っこく放っておけない点がある。興味がないと言えば、それは嘘になる。  だが、 「これならケンの奴も心配しないで眠れるかね」  サキのこの一声で、ユリは現実に引き戻される。 「うん…………そうだね」  明らかに声のトーンが落ちたユリを見て、サキは「しまった」と思うと同時に、改めてユリの心にぽっかりと開いた穴の暗さを知った。  十八年前の紛争で、惜しくも命を落としたユリの父親━━━━ケンジ・シノミヤ━━━━を話題に出したのはマズかったとサキが痛感した時には既に遅い。  今にも泣き出してしまいそうなユリの顔に、無理もないとサキは頭を抱えた。  唐突に、しかもユリの目前で、ケンジは胸を貫かれて絶命したのだ。  何とかしてこの空気を変えようと、辺りを見渡したサキであったが、その目に映ったのは、このタイミングでは最悪というべきものであった。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加