順風満帆?

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 そんな青年へ、船頭は初めて疑問を投げかけた。 「ところで……旦那」 「はい?なんでござんしょ?」 「ずっと気になってたんだがね。なんで『腕』を四六時中隠してるんだい?」  その質問と共に、一陣の風が小舟を軽く揺らす。それに合わせて、虫たちも急に黙り込む。まるで、青年の話に聞き入るかのように。  一息ついて、背を向けて、彼は答えた。 「……『魔神』が住んでるから」 「まじん?そいつぁ興味深いね。…………そういえば、この地域には昔っからそんな童歌(わらべうた)があったねぇ。『古(いにしえ)より生れしその拳(こぶし)。並ぶもの、この世になし。一振りすれば、村は燃え。二振りすれば、町は失せ。三振りもすれば、国滅ぶ。人々怯え、足すくみ。逃げることすら許されぬ。その拳(こぶし)の名、魔人拳(まじんけん)。故にならぶもの、この世になし』。…………確かこんなんだったかね?」 「……………………」  船頭の問い掛けに、青年は答えない。  ただ、目を細めて遠くを見つめるのみ。
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