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そして、そのまま青年の目線はどんどん下がっていき、やがて自分の憂鬱な顔が写っている、澄んだ水面に向けられた。
その状態のまま、静寂な時が流れていく。
ただひたすらに、無言。
あまりに唐突すぎる変化に戸惑い、船頭は心配になり、青年に再び声をかけた。
「旦那?どうしたんです?」
しゃがむ客に対して、上からのぞき込むようにして見下ろす男。
「オ…………」
「オ?」
しかし、次の瞬間男の視界に入り込んできたのは。
「オ…………エエエエエエ!!」
綺麗な川沿いが、ものの見事に口から出された吐瀉物で汚されていく…………何とも言えない光景であった。
「はぁ。あと一時間もしない内に着きますよ。………………舟の上には出さないでくださいね」
「ゲホッ……ずみ゛ばぜーん゛」
鼻水と涙でぐちゃぐちゃになった顔で謝る青年を眺め、船頭は確かにコレはただ者ではないと痛感していた。
(長年この仕事をやってるがね。いい年して川で船酔い起こした人は旦那が初めてですよ)
「う……うぅ……」
川のせせらぎに混じって、青年のむせび泣きが夜空に響き渡る。
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