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既に太陽は真上に輝き、その光は雲一つ無い空から、若干の緑が道の脇に生える大地へ、温かく降り注ぐ。
この地の名は『シャングリラ』。
中心から大きく円を描くように造られたこの街は、現在数万人が住み、『シャングリラ』は全方位三百六十度、十数メートルの厚い壁に囲まれている。
その堅固な街に入るためには、東西南北いずれかの門からのみ、入ることが許されている。
十八年前までは、街の中心部に上流階級の立派な城があったが、今となっては瓦礫の山が残り、革命が起きたことを体現していた。
先が点に見える城跡、ずらりと直線に商店が立ち並ぶ所へ、時折心地良い風が入り込み、人々の頬に触れている。
その空間では、老若男女が賑やかに会話を弾ませ、買い物をしたり、食事をとったり、それぞれが憩いの時を過ごしていた。
そんな中。
「ママァ、アソコにヘンな人がいるよ~?おててかくして、おぎょーぎわるーい」
「コラッ!人に指差しちゃ駄目でしょ!?」
一組の親子の会話を小耳に挟み(……そして聞こえないフリをし)ながら、赤い髪の青年が一人。椅子にもたれながら、丸い木製のテーブルで食事をとっていた。
(平和だなぁ…………)
テーブルの上には、茶碗に入った白いご飯が置かれている。
赤い髪の青年は、虚空をぼんやりと眺めながら、焼き魚と少々の野菜が盛られた皿を、器用にも服で隠された手を使って持っていた。
余った布地がプラプラ揺れている様は、まるでリズムをとっているようにも見える。
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