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青年の前を、手をつないだ恋人が、笑顔を振りまきながら歩く。
そんなペアを眺めていた風景が、青年が観ていた風景が、ぐにゃりと一瞬曲がりくねる。
そして、廃墟が立ち並び殺伐とした光景が姿を現す。
青年の脳内で、過去の記憶━━━━十八年前がフラッシュバックしたためだ。
あちこちに響き渡る銃声、民家に燃え盛り続ける焔、人々の悲鳴に、憎しみの咆哮。
ジワリと、脂汗が滲むのを青年は感じた。
(ホント、昔じゃ有り得なかった光景だよ。…………けど今になっても、争いは絶えない)
箸で食べ物を口へ運び、咀嚼。また箸で食べ物を掴み、口へほおりこみ、咀嚼。
若干憂鬱な気分になりつつ、青年は黙々と食事を続けた。
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しばらくすると、料理は全て青年の胃袋の中に収まっていた。
ボーっとしていた意識を戻して、青年は椅子からゆっくりと立ち上がる。
「あ~うまかった。さて、行きますか」
満足げに微笑み、見えない両手で合掌をした後、皿に向かって腕を揺さぶると、漆黒のコートから何枚かの硬貨が落ちてくる。
……それは今し方青年が食べた料理の代金よりも、少しばかり多い金額だった。
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