発端

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ピノコはそう言うと顔をクシャクシャにして歯をむき出した。 こういう所だけは一丁前の大人の顔をしたがる。 ピノコは一見、幼い少女のようだが、その実十八歳になる。 畸形嚢腫(きけいのうしゅ)と呼ばれる未完成な赤ん坊の詰まったできものから、一人前の人間として生きられるようにブラック・ジャックが持てる全ての医術を駆使して誕生させた少女だった。 無事に生まれていれば姉妹になるはずだった患者の年齢と同じ年であると盛んにアピールするのだが、実際に人として歩んだ年月はまだ数年と短い。 だからこそ今のような失敗もやらかし、ブラック・ジャックの手を煩わせるような事もするのだ。 ブラック・ジャックはこの小さなレディになんとも言いがたい奇妙な感情を抱いていた。親子に近いが、それともまた異なる、いわば親近感だった。自身も幼い頃爆発事故で体のほとんどを失いかけた経験がそうさせるのだろう。 ブラック・ジャックはピノコの頭に手をやるとあやすように優しく撫でて言った。 「本当のレディならそんなはしたない顔はしないもんだ。さ、私も手伝うから片付けようか」 するとピノコは顔を少し赤らめて言った。 「えへ。ちぇんちぇーピノコの事れれぃ(レディ)だと思ってくれてるんだ」 足元にまとわり付くようにじゃれ付く。 「ああ。思っているさ。お前は私のお嫁さんなんだろ?さあ、早く昼飯にしようか」 それを聞いたピノコが先ほどの鍋を差し出す。 「ん?どうしたんだ?それはもう捨ててしまっていいんだぞ」 「ちがうのよさ。例え焦げてても、ピノコのあいの結晶らから、ちぇんちぇー食べてくえるよね?」 これには流石のブラック・ジャックも言葉を失った。 「そんな物を食べたらすぐに体を壊してしまうだろう!私は医者だぞ!」 ピノコは驚いたように両手で頬を挟みこむと飛び上がって言った。 「アッチョンブリケ」
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