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「うん・・・・・・。やはりレトルトカレーはどう作っても美味いものだな」
次のカレーを口に運ぼうとしたその手が、突然のチャイムによって止まった。
(誰だ?今日は特に予定も入っていなかった筈だが・・・・・・)
無免許医の元を訪ねる者は大抵の場合、訳ありが多い。そんな来訪者は決まって突然訪問してくるものだが、その日はいつもと勝手が違っていた。
チャイムはこちらの応答などお構いなしに続けて鳴らされ、やがてそれがドアを叩く音に変わったからだ。
「なんだ、今食事中なのだが、少しくらい待てないのかね?」
ブラック・ジャックはナプキンで口元を拭うと、やれやれというような素振りで立ち上がり、ドアへと足を運んだ。
「ブ・・・・・・ブラック・ジャック・・・・・・先・・・・・・生」
弱弱しい言葉が途切れ途切れに聞こえる。聞き覚えのある声だった。
ドアノブを捻ると同時に男が二人、室内に倒れこむ。
その一人に見覚えのあったブラック・ジャックは思わず叫んだ。
「あ・・・・・・あんたは、可仁(かに)博士?」
可仁と呼ばれた中年の男は肩口を真っ赤に濡らしながら息も絶え絶えに言った。
「お・・・・・・お久しぶりですな。ブラック・ジャック先生。いつぞやはお世話になりました」
「どうしたんですか?その傷は。それに博士は確か・・・・・・」
この人の良い医学博士は確か数年前から行方不明になっていた筈だ。何の前兆も無く、突然の失踪であった為、一時期ミステリーとして騒がれた事があった。
「は、話は後です。どうか、この患者を救って下さい。費用は持ってきたバッグの中にあります」
そう言って隣に横たわる男を指差した。
見ればその男は頭に包帯をしており、年の頃二十代前半ほどの青年だった。
麻酔でも施されているのだろうか?
微動だにせずこんこんと眠りについている。
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