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その脇に無造作に放り出されたバックから札束がのぞいていた。
ざっと見積もっても一億はあるだろう。
「こいつは大金だ。可児博士、これァはどうなすったね?」
問いかけつつも頸の辺りにチリチリしたものが這い上がるのを感じる。
何時もの事だが、コイツも訳ありだ。
モグリの無免許医の所に転がり込むのは、決まって訳ありな患者が多いが、その中でもとびきりヤバいヤツの時は、決まってこの感覚がするものだ。
「せ……先生、お願いです。この患者を…お助け下さい。金は全て差し上げます……どうか、どうか」
可児博士は目を見開くと呻くように言った。
「可児博士、話は後だ。とりあえずはあなたの方が緊急性が高そうだ。話は後でゆっくり聞かせてもらいますよ」
そう言いながら服を脱がせ、真っ赤に染まった傷口を確認する。
これは……銃創だ。
出血からすると撃たれてからそう時間は経っていないだろう。
幸い弾は抜けているようだが出血が酷い。
「ピノコ!オペの用意を!急げ!」
「もうしてるのよさ!」
手術服に着替えたピノコは既にオペの準備に取り掛かっていた。
「なあに、この程度の傷、直ぐに塞いでみせますよ」
そう言って立ち上がったブラック・ジャックの口元には自信に満ちた笑みが浮かんでいた。
* * *
神業という言葉があるなら、まさにこの事を指すのだろう。
凄まじい速さでオペを終えたブラック・ジャックは、後始末をピノコに言いつけると仕事後の一服の為に表に出た。
潮風が顔に当たり、心地よい。
一仕事を終えた後の煙草はこの上なく美味かった。
眼前にはリアガラスに銃痕が走ったリムジンが停まっている。
銃器には詳しくは無いが、かなり貫通力の高い弾丸を使ったようだった。
ブラック・ジャックは煙草を咥えたまま、とりあえずリムジンを自宅の車庫へと入れた。
一体、誰が何故、可児博士を撃ったのだ?
その前に可児博士は失踪してから今まで何をしていた?
それにあの患者。
少し様子を見てみたが、容体は安定していたものの、開頭した痕跡があった。
少なくとも動かして良い状態には見えないが、可児博士ともあろう人がそんな事が分からない訳はないだろう。
よほどの事態か。
薫る紫煙を見つめながらそんな事を考えていると、ふと視界に黒塗りの高級車が猛スピードでこちらに向かって来るのが目に入った。
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