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『レッド公』が何者なのか、レッド区域でどんな研究が行われているかは、男にとってはどうでも良かった。
なにせこの施設での仕事は男が一年働かなければならぬだけの給料を、一月で与えてくれるのだ。
ただ条件はそれなりにあった。まず親類がいない事。
結婚していない事。
契約期間中は決められた宿舎に寝泊りし、施設に関する事は一切口外しない事。
外部に連絡を取らない事。
私物は決められた物以外は持ち込まない事。
大小合わせて百近くに及ぶ様々な条件をクリアした者だけがこの施設で働くことを許されるのだ。
非合法な研究をしているとの
もっぱらの噂だったが、そんな事は法外な収入の前では些細な事だった。
男は声を潜めて言った。
「どこに盗聴マイクが仕掛けられているかわからん。そんな事は寄宿舎に帰ってから聞くもんだ」
男の真剣な表情に軽口を叩いていた青年の表情が変わる。
「わ・・・分かりました・・・」
おっかなびっくりで首をすぼめると青年はまだ湯気の上がるコーヒーに口をつけて一口すすろうとした。
その時だった。
不意に部屋の電気が点滅し、赤色に切り替わった。
同時に耳障りな警報が鳴り響き、二人は表情を固くした。
すぐにモニターとコンソールに目を落とす。
コンソールはレッド地区での異常を知らせる警告を表示していた。
自動音声が鳴り響く。
『中央レッド地区で緊急事態発生。緊急事態発生。係員は直ちにマニュアルに従い、ケースD対応をして下さい』
ケースD。
それはレッド地区において深刻なトラブルが起こった事を告げていた。
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