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警備員はレッド地区への直接干渉行為は許可されていない。
男はすぐに青年に指示を飛ばした。
「ケネス大尉へ連絡を!すぐにだ!」
「はい!」
点滅する赤い警告灯が否が応にも緊張感を高める。
青年は緊急電話を取ると耳に押し当てた。
ワンコールを待たずに静かな、それでいて腹の底に響く声が応答した。
「こちら緊急対策部のケネスだ」
青年は上ずった声で答えた。
「こ…コードDが発令されました。だ、大至急レッド地区へ急行して下さい」
「分かっている。すでに部隊はそちらへ向かっている最中だ。開門を頼む」
「りょ、了解しましたッ!」
青年はいつの間にかとっていた直立不動の姿勢のまま受話器に向かって答えていた。
すぐに外部モニターに暗緑色に塗られたハンヴィーの群れが映し出される。土煙から猛烈なスピードを出している事が窺える。
正面ゲートを開くのとハンヴィーが飛び込むのはほぼ同時だった。
車両から重武装に身を固めた兵士が次々と飛び降りる。皆がっしりとした体格でその動作は鍛え抜かれた俊敏さを持っていた。
男と青年は警備室から飛び出しその一団を迎える。
集団の先頭にいる一際大きな男がマスクを外して声を張り上げた。
「ケネス大尉だ。これよりレッド地区にて作戦行動を行う。」
見事な髭を震わせながらそう言うと、ケネスはずかずかと警備室に入り込み、首から下げられた電子キーを手にレッド地区のロックを外した。
一瞬分厚い胸板とそこに刻まれた幾筋もの弾痕が男の目に飛び込んでくる。
元傭兵だという事以外はケネス大尉に関するパーソナル・データは一切公開されていなかったが、その傷跡が潜り抜けてきたであろう戦場の苛烈さを物語っていた。
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