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「我々が突入し次第、すぐにレッド地区は閉鎖する。いいか、くれぐれも中を覗こうなどと考えるな」
ぞっとするような冷たさを湛えたその視線に、背筋に氷柱が突き立つような感触を感じた男は、青年と同じように不動の姿勢をとって敬礼した。
「はっ!ケネス大尉殿もお気をつけて」
ケネスは口の端を吊り上げて歪な笑みを作るとマスクで顔を覆った。
見慣れない形の銃を手に、手招きをすると兵士の一団を引き連れて、あっという間に施設の奥へと消えていった。
青年が声を震わせながら問いかける。
「み・・・・・・見ましたか?連中の持っている装備」
「あの妙な形の銃の事か?」
青年は見送ったままの視線で頷いた。
「ええ、あれはOICWウェポンシステムです」
そういえばこの青年はミリタリーに造詣が深かったな、と男は心の中で呟いた。
「何だ?それは」
「アサルト・ライフルとグレネードを同時に備えた銃器ですよ。フル・ソリュージョン・ファイア・コントロール・システムという最新鋭の統合照準装置を備えたものです。アメリカで開発中でまだ実用化されたとは聞いてなかったのに・・・・・・」
その銃が実戦配備されているという事実が、この施設がどんなレベルの研究を扱っているかという事を示していた。
警備室に戻ると、そこには丁度オレンジ地区へと入っていくケネスの姿が映し出されていた。
施設全体を表示する大型モニターに幾つかの光点が現れる。光点は兵士の生命反応を示しており、何か異常があればリアルタイムでモニターに表示される仕組みだった。
それが内部が表示されていないオレンジの中に移動していくのを二人はただ黙って見ていた。
ブルー、グリーンの地区で働く人間達が感情の無いロボットのように、いつもと変わらぬ表情で働いているのが一層不気味なものを感じさせた。
「連中・・・・・・何で平気なんでしょうか?」
青年が信じられないといった顔で問い掛ける。
「さあな、あいつらの考えている事など俺には分からんよ」
そう返した男もまた、平然と作業を続ける研究員に、得体の知れないなにかを感じていた。
光点はとうとうレッド地区まで到達し、その最奥部へと進み始めた。
かなりの速度だ。
男はいつの間にか自分の口の中がカラカラに乾いているのを感じていた。
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