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グラスが地面に落ち、粉々に割れた
中に少しだけ残っていたワインがイリスのドレスに掛かり、小さな染みを作った
「あら、ごめんなさ……」
グラスを落とした女性は気品溢れる態度で話しだしたが、イリスの顔を見るなり顔色を変えた
「もっ……申し訳ございませんイリスお嬢様!! お怪我はございませんか?! あぁっ、私ったら……」
いつもそうだった
イリスの顔を見て自然に振る舞える人間なんて、彼女の両親くらい……
いや、その両親でさえも時によそよそしさを感じる
いつからこうなったのか
まるで他人事のようにイリスは記憶を辿っていた
グラスを落とした女性の声などはほとんど聞こえてはいない
私がこの家の一人娘だから?
それとも父に権力があるから?
違う、そうじゃない
答えはイリスにもわかっていた
もう随分前から病が自分の命を蝕んでいる
自分はもう永くない
そんな『死』の臭いがいつも付き纏っている
だから人は気味悪がって自分を嫌煙する
『同情』という優しくて残酷な感情で縛り、そのまま崖から突き落とすのだ
今夜は家でパーティーが開かれているため、一人娘であるイリスも形だけ出席している
もっとも、体が弱く踊りも踊れないイリスは文字通りただのお飾りだった
明るくきらびやかやパーティー会場の隅で、ただ亡霊のように立ち尽くしていた
自分が居ると皆が困るのではないだろうか
この場の空気にはどうにも合わせられそうにない
そう思い、イリスは静かに屋敷の外へと向かった
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