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「もし、そこのお嬢さん。一人で籠を抜け出して夜の散歩にでも出掛けるつもりかい? よろしかったらわたしの相手でも……」
妙な喋りの……男性の声だった
低くくぐもった声で、まるで呻いているような響きを持っている
イリスが振り返るとそこには灰色のフードを被った長身の男性がいた
顔はよく見えない
ただ、フードから包帯が覗いているのがわかった
魔族との永い戦いが絶えない状況では、こうして大怪我をした人も少なからずいるものだ
ただ、このパーティーに訪れる人達は自らは戦に行かず、いつも高見の見物
イリスも、人が傷つきながら戦っていることを、ただの情報としてしか聞けない自分が嫌で堪らなかった
この人は、戦いに身を置いてきたのだろうか
私と違って、確かな『生』を持っているのだろうか
「私の顔に何か……おっと、そうか、これでは顔が見えないか」
フードを被った男性は顔を上げて真っ直ぐ私を見つめた
顔は全て包帯で覆い尽くされ、鼻や目の位置が辛うじてわかるくらいであった
「貴方は……?」
こうして誰かと話したのは凄い久しい気がした
心地よさにも似た感覚を持ったまま、イリスは男に尋ねた
「あぁ、場違いだったらすまないな。私は世界を旅している。今日偶然此処を通り掛かったら戦に勝った記念日だというじゃないか、めでたい日だということで、わたしもついでに招待されたんだ」
男は独特の口調で朗々と喋った
旅の人……
戦の兵士ではないのかしら
他の招待客は彼を訝しい目で見ていたが、イリスはもうその時には彼の神秘的な雰囲気に惹かれ、興味を持ち出していた
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