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「しかし、この社交の場で立ち話というのも無粋だろう……どうだい? 私と一曲……」
フードの男はイリスに右手を差し出した
色白く流れるように細い指が、ゆったりとしたフードの袖からのぞいていた
ダンスに誘われるだなんて何年ぶりだろうか
懐かしさと嬉しさが一瞬過ぎったが、イリスは直ぐに冷静に戻った
今日こうしてパーティーに足を運ぶだけで精一杯な自分にダンスなんて踊れる訳がない
「いえ、私は……」
でも、この人は私のことを知らない
狡いかもしれないけど、このまま知らないでいて欲しいと思ってしまった
「今日は……ちょっと足を傷めていて……」
「君は……嘘をつくのが下手だね」
フードの男性は、さっきと変わらない口調で、素っ気なく言った
「イリス嬢、お手を……」
「! ……私のこと……」
初めてだった
自分のことを知りながらもこうして話し掛けてくる人は……
気付いたら私は彼の手を取っていた
彼との距離が一気に近くなった
本当に背が高く、私は彼の顔を見上げるしかなかった
その表現は包帯で全く見えなかったけれど、何故かその顔を見ていると胸が高鳴り、息が苦しくなった
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