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さて、マユミさんが帰ってくるまで何をしよう。僕は車椅子を器用に動かしながら、マユミさんに対するいやがらせに頭をひねった。
いつものように、部屋を全力で荒らしてやろうか。しかし、物理的な破壊はマユミさんにとって、それほど深刻な問題ではないらしく、困ったように笑うだけで、特に面白い反応を示してくれたことはない。
それならば、と僕は思う。今日は少しだけ、いつもよりひどいことをしてみよう。何かネタはないか、思案を巡らせているうちに、ふとマユミさんが置き忘れたポシェットに目が止まった。中を物色すると……、ビンゴ。キーケースが入っていた。
ケースの中には、ハートを象ったおもちゃのような鍵が一つだけはさんであった。取りに帰ってこないところをみると、車のキーなどは別に持ち歩いているのだろう。
これに対応する鍵穴には心当たりがあった。僕は期待に胸を膨らませ、マユミさんの部屋に入った。ロールトップデスクの引き出しを調べると、最上段だけ旋錠されていたので、ハートの鍵を挿入してみる。
かちゃり、と小気味の良い音が聴こえたので僕は安堵する。勢いよく、それを引いた。
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