愛故に解禁

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 まったく、マユミさんという人間は矛盾に満ちている。マユミさんは僕の両親の気持ちをかなりダイレクトな形で知っているのだ。両親に申し訳ないという気持ちがありながら、それでも僕を手放したくない。  僕はまだまだ子供だから、愛という概念について詳しくないが、それはどうやら、人を迷走させるものなんだろうと悟る。 「どうして、あなたは、私を虐めるの?」  マユミさんが僕に抱きついてくる。声は掠れていた。 「私はこんなに、あなたのことを愛しているのに」  マユミさんの体はだいぶ軽くなっていた。監禁されているのは僕なのに、憔悴しているのはマユミさんの方なのだ。  あるいは、僕が成長したからそのように感じたのかもしれない。いずれにせよ、四年という歳月は、そろそろ僕たちに結末を促しているようだった。  僕はここへきて初めて、マユミさんの背中に腕を回した。マユミさんの体が、ピクリと、わずかに震えたのを感じた。 「マユミさん、だいぶ小さくなっちゃったんですね。僕が虐めたからですか?」  精一杯優しい声で、耳元に囁く。  マユミさんは、僕の両肩をひかえめに掴んだ。僕の真意を探ろうと、怯えながら、しかしまっすぐ、希望と困惑と不安をないまぜにした表情で僕を見据えている。
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