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「こんなことをされて、僕があなたを憎むのは当然だと思いませんか? あなたにはいろんなものを奪われました。両親と過ごす生活も、歩くという行動さえも。だから、僕もあなたから何かを奪いたかった。そんな想いが、あなたを虐める動機になっていったんです」
額に、頬に、マユミさんの涙が落ちてくる。容赦のないスコールみたいな涙だった。顔中がびしょびしょになったころ、僕はマユミさんの頭を、赤ん坊をあやすように撫でてやった。
「でもね、最近、マユミさんがやせ細っていくのをみてると、変な気持ちになるんです。マユミさんを憎んでいるはずなのに、なんだかとても申し訳ないっていうか、可哀想っていうか、そういう気持ちに。なんででしょう。もしかしたら、一緒に生活しているうちに、僕もマユミさんのことを愛してしまったのかもしれませんね」
マユミさんはわんわん泣いた。泣き崩れて、僕の胸に顔を埋めて、またわんわん泣いた。赤ん坊のように、というより、それはもう赤ん坊そのものだった。
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