拉致監禁

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『……続いて、三年前に行方不明になった、山岸拓真(やまぎしたくま)くんのご両親から、心の叫びをお届けします』  アナウンサーがそう告げると、画面が僕の実家の外観に切り替わった。懐かしい。僕が昔いたずらで書いた塀の落書きも、沖縄好きの父さんが門の上に設置したシーサーも、ほんの少しの変化もなく、そこにきちんと存在していた。  続いて家の中へカメラが入っていく。十畳の居間。食卓を囲んで、父さんと母さんと姉さんが神妙な面持ちで正座していた。  父さん――元々薄かった髪の毛が、さらに円形に脱毛していた。  母さん――皺の数が信じられないほど増えていた。  姉さん――化粧が上手くなっていた。黒かった髪は金色に光り、ウェーブがかかっている。  父さんと母さんが、僕に対して訴えかけた。悲しみと焦燥と諦めが入り混じった、力のない声だった。拓真、家出なら帰ってきてくれ――。誘拐なら、犯人さん、どうか息子を帰してやってください――。  映像は、顔を両手で塞ぎ、嗚咽を繰り返している母さんをズームアップしたところで、ぷつりと音をたてて消えてしまう。リモコンを持ったマユミさんの小さな手が、僕の背後から伸びている。
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