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朝になって、マユミさんが帰ってきた。ずいぶん、疲れた顔をしている。マユミさんは医学に携わる職業に就いているらしいが、おそらく昨晩は大変な手術でもあったのだろう。
リビングに戻ると、マユミさんが叫び声をあげた。
テーブルの上に、僕がカッターで切り刻んだ少年の写真の断片たちが散乱している。
マユミさんは慌ててそれを拾い集め、パズルを組み合わせるように、修復を試みていた。
やがて、あまりに細かく刻まれたそれの修復が不可能だと悟ると、一筋の涙を流して、僕に呟いた。
「どうして?」
僕は相変わらず無表情で答える。
「どうしてって、それはこっちのセリフですよ。マユミさんは僕を愛しているんでしょう? だったら他の子供の写真が損なわれたくらいで、どうしてそんなに悲しむんです?」
マユミさんはそれには答えず、テーブルに突っ伏してしばらく泣いていた。時折、顔をあげて僕に媚びた眼差しをむけてきたので、全て無視した。三年間の付き合いで、このような場合、マユミさんが僕に求めているものが言葉であると知っていたからだ。
優しい言葉でなくてもいい、でも何か、何かいって。何か声をかけて――。
無言のメッセージを僕はしっかりと受け取っている。ある意味ではすでに両親以上に親密なコミュニケーションをとれているのだ。
だから、僕は無視を続けた。これが最良の答えですよマユミさん、という内心は、彼女に届いているだろうか?
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