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「解れば良い。
さぁ、稽古を始める。」
怒鳴り声が収まり、何時もの低くダンディーな祖父の声が頭上から降ってくる。
私は顔を上げると目を見開き、木刀を手にもった。
竹刀や木刀を持つと、髪の先まで神経が研ぎ澄まされ、私は武道家の顔になる。
その顔を見た祖父は、満足そうに頷くや否や、木刀をやや下段に構え間合いを詰めてきた。
私は中段の構えを崩さず、切っ先をやや下げ身体を前後に揺らしながら間合いを計る。
お互い相手の動きを見逃すまいと神経を集中させる。
研ぎ澄まされた感覚で、祖父の動きを視界の端に捉えると、私は限界まで重心を右足に乗せた。
自ずと身体は前のめりになり、左足が前へと出る。
その瞬間、私は身体と腕を限界まで伸ばし、さらに右手を木刀から放す。
間合いが十分でなくとも、右手を放す事によって間合いを詰める事が出来る。
だが、そう簡単に一本貰える相手ではない。
私を知り尽くす祖父は、事も無げに私の渾身の一撃を避けた。
「流石です。
ですが、その年で良く身体が動きますね。」
(化け物だな…。)
「無駄話はするな!」
72歳とは思えぬ素早さは関心する。
たかが18歳の私は、祖父から見たら“ひよこ”同然だった。
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