*夢ノ遣イ*

5/8
前へ
/537ページ
次へ
「解れば良い。 さぁ、稽古を始める。」 怒鳴り声が収まり、何時もの低くダンディーな祖父の声が頭上から降ってくる。 私は顔を上げると目を見開き、木刀を手にもった。 竹刀や木刀を持つと、髪の先まで神経が研ぎ澄まされ、私は武道家の顔になる。 その顔を見た祖父は、満足そうに頷くや否や、木刀をやや下段に構え間合いを詰めてきた。 私は中段の構えを崩さず、切っ先をやや下げ身体を前後に揺らしながら間合いを計る。 お互い相手の動きを見逃すまいと神経を集中させる。 研ぎ澄まされた感覚で、祖父の動きを視界の端に捉えると、私は限界まで重心を右足に乗せた。 自ずと身体は前のめりになり、左足が前へと出る。 その瞬間、私は身体と腕を限界まで伸ばし、さらに右手を木刀から放す。 間合いが十分でなくとも、右手を放す事によって間合いを詰める事が出来る。 だが、そう簡単に一本貰える相手ではない。 私を知り尽くす祖父は、事も無げに私の渾身の一撃を避けた。 「流石です。 ですが、その年で良く身体が動きますね。」 (化け物だな…。) 「無駄話はするな!」 72歳とは思えぬ素早さは関心する。 たかが18歳の私は、祖父から見たら“ひよこ”同然だった。 .
/537ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4183人が本棚に入れています
本棚に追加