プロローグ

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「風雅がやってよ、そんなの」  昨日の五時間目の化学で出された課題は、未だにカノンの机上に鳩の餌のようにばら撒かれている。 「俺はカノンの召使でも執事でもないんだ。ただの幼馴染で同級生だろ?」  カノンは捨て子で、幼いときに俺の母親が家に連れてきた。 体中が傷だらけで、傷が生々しく残っている体をまるでぬいぐるみを抱きかかえるかのようにして帰宅した母親。 そんな母は今は亡き者となり、結局この家に残ったのは俺とカノンだけとなった。 父親も俺が産まれる前には死んでしまったらしい。  カノンが負っていたおびただしい数の傷の原因はほとんど何も知らない。 そんなこと、聞きもしないし聞きたくもないと思っているからだ。 いつか自分の口から伝えてくれるときがくるかもしれない、それまでゆっくり待てばいい。 この先永遠にそのことについて口を開かない可能性も大だが、俺はそれならそれでいい。
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