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そんな平助より先に下の名前で呼ばせてる総司に斉藤の本心も気になったが、平助にしろ総司にしろ斉藤にしろ、あと悠も含め、京に残った奴らは剣に私情が出るほど弱くない。
その点、私情に口出ししなくて良かった。
本当に良くできた奴らだと、内心常々感心してたもんだ。
「それじゃちょっと失礼します、土方さん。」
そう言った悠を見て、ちょっとした悪戯心が沸く。
“バラガキのトシ”とはよく言われたもんだ。
「悠、洗い終わったら“2人で”出かける。付き合え。」
わざと強調して言ってみせると、平助は顔をあげて、斉藤は振り向いて、2人ともすごい形相で俺を見た。
「はい、喜んで。」
そう言って笑った悠の笑顔で、俺の平助と斉藤への悪戯は大成功だ。
夕方、日も暮れる頃に来た悠と屯所を出る。
「どこに行くんですか?」
「あぁ、島原だ。」
「え、島原?」
「芹沢さんたちが通ってる店を見ておく。俺ァ飲むつもりはねぇよ。」
「そうか。だから私ですか。」
「私なら遊女に見向きしないで探しますし酒にも目が眩みませんもんね」と、笑ってみせる。
平助やら斉藤やらの気持ちも、分からんでもない。
島原に入るや否や、俺達2人は異常な注目を浴びた。
島原の遊女という遊女が、俺達に振り向くのだ。遊女が振り向けば、そいつの連れている男も俺達を見る。
チラチラ俺を見てくる悠に、どんと構えてろ、と言う。
そしたら本当に堂々としてみせる。素直な性格でよく顔に出るが、やらなきゃいけないことは本当によくやれる。
俺を含めた新選組隊士が、ずっと悠に絶対の信頼を置いていたのはこういう所が大きいだろう。
「邪魔する。ちょっと訊きてぇ事があるんだが。」
そう言って入る俺に続いて、凛とした顔で悠が続いて入ってくる。
「何でございましょう。」
「ここに芹沢先生はいらしているか。」
「へぇ。お知り合いの方ですか。」
「あぁ。少し用があったのだが、お楽しみなら失礼する。」
「あらぁ、お兄さんたち、遊んでいきまへんの?」
横から話しかけてきた遊女に俺が渋い顔をするのとは対称的に、悠はにこやかに対応した。
「今日は晩に予定がありまして。次はよろしくお願いします。」
「絶対どすえ?楽しみにしております。」
「はい。あの、私たち先からずっと沢山の視線を感じるのですが、どこか変な所ありますか?」
それを聞いた遊女は驚いた顔をした後微笑んだ。
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