上洛

13/14
前へ
/186ページ
次へ
「それじゃ僕、そろそろ寝るよ。」 「はい。お話して下さってありがとうございました、沖田さん。」 「それ、さ。」 「はい?」 「沖田さん、って呼び方、止めない?悠ちゃんに他人行儀な呼び方されるの嬉しくないなぁ。」 「いや、でも…」 「次から総司って呼んでね。じゃないと返事しないから。」 「え!?いや、あの…!」 「おやすみ、悠ちゃん。」 おきt…、総司さんは満面の、しかしながら不敵な笑みを浮かべて去っていかれた。 置き去りを食らった私に、もう1人の生き残りである斉藤さんが千代、と声を掛けてきた。 「お前、女か。」 「…!!!」 「先程沖田さんが“女の子”と言っていた。」 「あ…」 迂闊だったと思った。 「沖田さん以外も知っているのか。」 「…はい、近藤さんに土方さんに山南さん、井上さん、永倉さん、原田さん、あと藤堂さんもご存知です。」 「なる程な。…少し、手合わせ願えるか。」 「はい、構いません。ですが皆さんを起こしては何ですので八木邸で如何ですか。」 断る理由はなかった。ただの勘だが、斉藤さんに悪意はない。 八木邸に入って庭で竹刀を構えた。 「訊いてもいいか。」 「どうぞ。」 「流派と、出身は何処だ。」 「小野派一刀流、会津の生まれです。」 そういうと、斉藤さんは竹刀を下ろした。 「え?あの…斉藤さん?」 「俺の師が何年か前に会津の友の道場を手伝いにそちらへ移られた。その後の文で、娘に免許皆伝を与えてやったのだと話しておられた。」 「え…?」 「得意とするのは下段だが、他も全部使い物になる。力は弱いが筋が良く、飲み込みが早い上努力家ですぐに上達したと書いてあった。あれは千代、お前のことだろう。」 「じゃあ私の師は斉藤さんの師ということですか…!?」 「そういうことになる。師が与えた免許皆伝なら、わざわざ手合わせする必要もない。」 「じゃあ、明日から私に背中を預けて下さるんですね。」 満面の笑顔で言うと、斉藤さんは驚いた様子だった。 「な…」 「手合わせ、私の力を試すつもりだったのでしょう?私を信頼してもいいのかどうか、判断するおつもりだったんじゃないんですか?」 そう言うと、斉藤さんは息を吐いて、ふっと笑った。
/186ページ

最初のコメントを投稿しよう!

823人が本棚に入れています
本棚に追加