上洛

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斉藤さんは竹刀を置き、縁側に腰掛けた。 「女だと知り、力を試そうとする奴からの手合わせと分かっていながら受けたのか。」 「はい。」 「…馬鹿にされていると感じなかったのか。」 「はっ…!そういう線もありましたか…!」 「千代、お前…」 「でも斉藤さんだったから思い浮かばなかったのかも知れません。」 斉藤さんが、(とっても分かりにくいが)少し顔をしかめた。 「それは、どういう意味だ。」 「だって斉藤さん、身分やら肩書きやらで判断する人じゃないでしょう?」 「…どうしてそう思う。」 「勘です。」 そう言って笑う私に斉藤さんは(またとっても分かりにくいが)困ったように笑ってみせた。 「“悠”。」 「え?あ、はい!」 「まだもう少し大丈夫か?良ければ少し、話したい。」 「はい、喜んで。」 思わずクスッと笑うと、斉藤さんは(これもとっても分かりにくいが)ムッとした顔をする。 変化が小さすぎるが、意外と多彩な表情の持ち主だ。 「それからな、悠。」 少し、他愛もない話をしたあとだった。 「はい?」 「俺は沖田さんと同い年だ。」 「あ、そうなんですね。」 「それでだ、その…」 「何ですか?」 「いや…だから…あの…」 「?」 「…俺も、斉藤さんと呼ぶようなら返事はしない。」 「え?」 驚きのあまり、目を見開いて斉藤さんを見る。暗くてはっきり見えなかったが、耳まで赤かった気がする。 「俺はもう休む。お前も早く休んだ方がいい。」 そういうと立ち上がって歩き出した。 スタスタ歩く後ろ姿に「おやすみなさい。」と声を掛けると、振り返ってくださった。 「おやすみ、悠。」 そういって(今度は分かりやすく)優しく笑って下さった。 その後ろ姿を見送った後、私は少し星空を眺め、私も会津藩お預かりの壬生浪士隊としての初めの1日を終えた。
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