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「これでようやく一応は安泰だな。」
「全く、土方さんには適わねぇよ。会津の容保様まで説き伏せちまうとはなぁ。」
「新八、それじゃあまるで俺が容保様相手に押し借りしたみてえじゃねぇか!」
「違えよ土方さん、しんぱっつぁんは褒めてんだって!」
新八の言うように容保様を説き伏せた訳じゃない。どうもタイミングが良かった。会津の京都守護職宛てに潤沢すぎるほどの大金が幕府から降りたばかりだった。
だからスッと会津藩から浪士隊に金を下ろして貰うことができた。
運の他に感謝するとすれば、たかが一浪士の頼みをすぐに一番上の容保様まで知らせた、また即決を下した容保様ほか会津人の行動力だった。
「まぁこれで俺達も悠ちゃんみたいな綺麗な袴が着れるってこった!かかか!」
「永倉さんの袴がボロボロなのは扱いが悪いからでしょう?」
「だからいっつも悠ちゃんに洗って欲しいなぁって…」
「な!?しんぱっつぁんだけ悠に洗って貰うなんてずりぃ!悠、俺のも洗ってくれ!」
「な、平助!お前悠ちゃんは俺のだけを…」
「どっちも嫌です。」
えぇ、と、新八が心底残念そうな顔をする。悠もすっかりこいつらに慣れきってやがるところを見ると、こいつは適応力も半端じゃねぇんだろう。
すると廊下から斉藤が現れた。
「悠、ちょっといいか。」
「はい、何でしょう?」
「柔らかい手拭いは、擦って洗ってもいいのか。」
「手拭い?はじめさんのですか?」
「ん、はじめさん?」
そう言ったのは平助だ。
「いや違う。昨日八木家のご子息から手拭いを借りたもので洗って返そうと思うのだが…。」
「なるほど!」
「良ければ悠、お前が洗ってくれると助かる。」
「あ、はい!構いませんよ。」
「ちょ、ちょっと待て悠!なんでお前、はじめくんだけはじめさんって…」
「総司さんも下で呼んでます。」
「なあっ!?じゃあ俺も平助って呼べ!あと俺には敬語使うな!」
悠は、はいはい、と立ち上がりながら返事をした。
「ちょ、悠!ほんと分かってる!?ってか何ではじめくんの洗濯物だけ洗うのさ!」
「分かってるよ、平助。あと手拭いだけなら平助のも洗うから。でも着物は面倒だから嫌。」
そう言って笑う悠を見て、平助はうつ伏せに倒れこむ。
「バカやろう!もうほんとお前はさぁー…。」
平助は島原やら吉原には女より酒目当てで行く奴だ、悠は多分、平助が初めて真剣に惚れた女になるんだろう。
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